2種類の弱毒生ワクチン株の間で生じた組換えウイルスに関連する豚繁殖・呼吸障害症候群
豚繁殖・呼吸障害症候群(PRRS)は、養豚産業に大きな被害をもたらす重要疾病です。 本研究では、沖縄県の一貫経営農場で繁殖障害を示した母豚からPRRSウイルスを分離し、 全ゲノム解析によってその遺伝学的特徴を明らかにしました。
概要
豚繁殖・呼吸障害症候群ウイルス(PRRSV)は、世界の養豚産業に大きな経済的損失をもたらす重要な病原体であり、近年は組換え株の出現が防疫をさらに複雑にしています。とくに、弱毒生ワクチン(MLV)が使用される環境では、ワクチン関連株の動態を適切に把握することが重要です。本研究では、2024年3月に沖縄県の一貫経営農場で発生したPRRS事例を対象に、流産母豚から分離されたPRRSV株 KU-OKN3 の性状を解析しました。 この農場では、PRRS MLVによる定期的なワクチン接種が実施されていたにもかかわらず、早産および死産の増加を特徴とする繁殖障害が確認されました (図1)。
KU-OKN3の全ゲノム解析の結果、本株は2種類の市販弱毒生ワクチン株(Fostera株、Ingelvac株)の間で組換えが生じたことに由来する、モザイク状のゲノム構造を有することが明らかとなりました(図2)。具体的には、ORF2〜ORF6は一方のMLV株と高い塩基配列相同性を示した一方で、ORF1bは別のMLV株により近縁でした。 また、ORF5に基づく従来の遺伝子型分類だけでは、このような広範な組換えを見出すことができず、単一遺伝子解析の限界が示されました。
さらに、KU-OKN3はブタ肺胞マクロファージ由来PAM-T43細胞(注1)では親ワクチン株と同程度に増殖した一方、アフリカミドリザル腎由来MA-104細胞では増殖が認められず、親株とは異なる生物学的性状を示しました。 これらの結果は、ワクチン株同士の組換えPRRSVが野外環境下で実際に出現し、臨床的な発生事例に関与しうることを示しています。
本研究は、日本国内のPRRS事例において、ワクチン関連組換えウイルスの出現可能性を示した点で重要です。 PRRSVの全ゲノム解析に基づく監視体制の強化とともに、農場レベルでのウイルス動態や伝播実態の解明を進めることで、ワクチン運用を含めた統合的な防疫戦略の重要性を示すものです。
用語解説
(注1) PAM-T43細胞: 当大学にて作出した不死化豚肺胞マクロファージ (Nguyen et al., Pathogens, 2024)
論文情報
Kosuke Okuya*, Mamoru Oshiro, Makoto Ozawa¶. "Porcine reproductive and respiratory syndrome associated with a recombinant virus between two commercial modified-live vaccine strains". Veterinary Microbiology: 2026年3月27日, doi:10.1016/j.vetmic.2026.111007 論文へのリンク