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研究成果紹介

環状ポリメラーゼ伸長反応法を用いた豚繁殖・呼吸障害症候群ウイルス作出技術の確立

掲載日:2026年8月7日 カテゴリー:研究成果 TADセンター

豚繁殖・呼吸障害症候群(PRRS)は、国内外の養豚業に大きな経済的損失をもたらしている重要な感染症です。 本研究では、環状ポリメラーゼ伸長反応(CPER)法をPRRSウイルスに応用し、感染性を持つPRRSウイルスを人工的に作製する技術を確立しました。

  • CPER法を用いて、PRRSVの全長ゲノムを複数のDNA断片から環状DNAとして組み立てました。
  • 作製したDNAをHEK293T細胞に導入することで、感染性を持つPRRSVを作出しました。
  • 作製ウイルスは親株と同等の増殖性を示し、さらに狙った遺伝子変異を導入できることを確認しました。

概要

豚繁殖・呼吸障害症候群(PRRS)は、1980年代後半の発生以来、世界の養豚産業に大きな被害をもたらしてきました。 原因ウイルスであるPRRSウイルス(PRRSV)は遺伝的変異が大きく、病原性や免疫回避機構の解析、ワクチン開発のためには、 狙った遺伝子変異を持つウイルスを作製するリバースジェネティクス技術が不可欠です。

しかし、PRRSVはゲノムが大きく、また遺伝的に不安定であることから、従来のリバースジェネティクス系は技術的に難しく、 構築にも時間を要するという課題がありました。本研究では、細菌を介さずに全長ウイルスゲノムを組み立てることができる CPER法をPRRSVに応用し、より迅速かつ柔軟に感染性PRRSVを作製する技術の確立に取り組みました。

CPER法によるPRRSV作出技術

本研究では、PRRS弱毒生ワクチン株であるIngelvac PRRS MLV株のゲノムを8つのDNA断片に分割しました。 さらに、CMVプロモーター、HDVリボザイム、ウシ成長ホルモンpoly(A)シグナルなどを含むリンカー断片を用いて、 CPER法により全長ウイルスゲノムを環状DNAとして組み立てました。

得られた環状DNAをHEK293T細胞に導入したところ、感染性を持つPRRSVを作製することに成功しました。 さらに、ORF5領域にはアミノ酸配列を変えない塩基置換を導入し、設計した変異をウイルスゲノムへ組み込めるかを検証しました。

図1
図1. CPER法を用いたPRRSウイルス作製の概要とORF5変異の導入。 図上部にIngelvac PRRS MLV株のゲノム構造を示す。 PRRSウイルスのゲノムを8つのDNA断片に分割し、リンカー断片とともにCPER法で組み立てることで、 感染性を持つPRRSVを作製した。

感染性ウイルスの作製確認

CPER法で作製したPRRSVを細胞に感染させ、PRRSVのNタンパク質を蛍光染色によって検出しました。 ウイルスを感染させていない細胞では蛍光シグナルは認められませんでしたが、CPER法で作製したPRRSVを感染させた細胞では、 多数の細胞でNタンパク質の発現が確認されました。

この結果から、CPER法によって組み立てた全長DNAから、感染性を持つPRRSVが作製されたことが示されました。

図2
図2. CPER法で作製したPRRSウイルスを感染させた細胞の蛍光顕微鏡画像。 左はウイルスを感染させていない細胞、右はCPER法で作製したPRRSウイルスを感染させた細胞である。 感染2日後にPRRSVのNタンパク質を蛍光染色し、蛍光顕微鏡で観察した。

作製ウイルスの増殖性とプラーク形成

次に、CPER法で作製したPRRSVが親ワクチン株と同等の性質を持つかを調べました。 PAM-T43細胞にウイルスを感染させ、培養上清中のウイルス量を経時的に測定したところ、 CPER法で作製したPRRSVは親株と同等の増殖性を示しました。

また、Avicelを含む培地で培養し、感染3日後にクリスタルバイオレット染色によってプラークを観察したところ、 CPER法で作製したPRRSVは親株と同様のプラーク形成能を有していました。

図3
図3. CPER法で作製したPRRSウイルスとワクチン株の増殖性およびプラーク形成の比較。 (A)CPER法で作製したPRRSVとワクチン株をPAM-T43細胞に感染させ、培養上清中のウイルス量を経時的に測定した。 (B)細胞にウイルスを感染させた後、Avicelを含む培地で培養し、感染3日後にクリスタルバイオレット染色によってプラークを観察した。

ORF5領域への人為的変異の導入

本研究では、CPER法の応用性を確認するため、ORF5領域にアミノ酸配列を変化させない塩基置換を導入しました。 その結果、MluI認識配列が失われるように設計した変異が、作製ウイルスのゲノムに正しく導入されていることが確認されました。

野生型および変異型PRRSVのORF5領域をRT-PCRで増幅し、制限酵素処理後にアガロースゲル電気泳動で解析した結果、 設計した変異を持つリコンビナントPRRSVを作製できることが明らかになりました。

図4
図4. 野生型および変異型PRRSウイルスのORF5領域の解析。 野生型および変異型PRRSVのORF5領域をRT-PCRで増幅し、それぞれ異なる制限酵素で処理した後、 アガロースゲル電気泳動によって解析した。 レーン1、4、7は未処理のPCR産物、レーン2、3はMluI処理、レーン5、6はHincII処理、 レーン8、9はSacII処理したサンプルを示す。

研究成果の意義

本研究により、CPER法を用いてPRRSVを人工的に作製し、さらに狙った遺伝子変異を導入できる リバースジェネティクス技術が確立されました。この方法は、従来のプラスミド構築に依存した方法と比較して、 より迅速かつ柔軟に遺伝子操作ウイルスを作製できる可能性があります。

本技術は、PRRSVの複製機構、病原性、抗原性変化、免疫回避機構の解析を加速させると考えられます。 また、将来的にはワクチン候補株の設計や診断法の開発など、PRRSの制御に向けた研究の発展に貢献することが期待されます。

論文情報

Akiha Inoue, Inori Goda, Isshu Kojima, Mana Esaki, Kosuke Okuya, Makoto Ozawa. "Establishment of a circular polymerase extension reaction-based reverse genetics system for porcine reproductive and respiratory syndrome virus". Veterinary Microbiology, 319:111053, 2026. doi:10.1016/j.vetmic.2026.111053
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関連教員

小澤 真 教授

江㟢 真南 特任助教

奥谷 公亮 助教